ブログ『棚田物語』

大雨から考える坂折棚田の保全のこと更新日:2018年7月27日

7月初旬の大雨。坂折棚田のある中野方町では水曜日から小学校が休校となり、その後日曜日まで大雨警報が続くという異常事態となりました。幸い、坂折棚田は被害もなく無事でした。ご心配いただいた方々、ありがとうございました。といっても、最近よく起きるゲリラ豪雨などによって、棚田の保全環境は厳しくなりつつあります。

 

坂折棚田に生まれ坂折棚田で育ち、今年81歳になる鈴村直さんが教えてくれました。

 

「昔の雨はしとしと降るのが普通だった。最近の雨は集中して大量に降るもんで、土が流れて裏積みが崩れて石垣が壊れてしまうんや。」と。
土が流れる?
裏積みが崩れる???
どういうことか詳しく説明してもらうと、
1)坂折のような石積みの棚田では、田んぼの土が少しずつ流れていく
2)土がなくなった分、裏積み(石垣の裏に積んでいる小石)が崩れる
3)石垣を支えていた裏積みが崩れることで、石垣が動いてしまう
4)石垣が動いて歪むために、田んぼの土がさらに流れやすくなる
5) つまり1) ~ 4)が繰り返されると、最終的に耐えられなくなった石垣が崩れる
これは坂折棚田のような石積みの棚田では避けられない現象だそうですが、それをより加速させているのが、最近よくあるゲリラ豪雨のような激しい雨なのだそうです。
激しい雨によって流される田んぼの土の量が増え、石積みが傷むのも早くなるのだと。
実際、今年の春、なごみの家のすぐ近くにある一つの田んぼの石垣が田植え前に崩れてしまいました。

 

また、同じく坂折育ちの飯田さんも話します。
「昔は石垣に草なんて生えなかったのに、最近は生える。理由は石と石との間に土が増えたから、植物が根を張れるんだよ」と。
まっすぐだったはずの石垣が凹っと出っ張っている部分。ひどい雨が降れば、次に崩れるのはここかもしれません。
手前の石垣の岩と岩の間には隙間もできています。
飯田さんの田んぼの一つ、13年間オーナーさんが使ってきた田んぼに今年から稲を植えなくなった理由も同じく土が流れていくことが原因だと教えてくれました。
「田んぼの土が流れると土の中に空洞ができるんやけど、知らずにその上を重い機械が通ったり、歩くと穴にはまるんやわ。田んぼの端の方でそんなことが起こると下の田んぼに落ちて怪我する危険性もあった。」

 

写真ではわかりづらいですが、田んぼの端に凹っと穴ができています。
実際に歩くと落とし穴レベルで怖いです。
「石積みの間に隙間ができて水持ちが悪くなるもんで、田んぼとしては水持ちが悪くなる。田んぼとして使うのにも限界があった。」とか。

坂折棚田へ20年近く通い、坂折棚田の写真集も出版している伊藤さん曰く、

「実は、写真家としては、この田んぼが使われなくなると寂しいんだよな」とのこと。
人気の撮影ポイントの一番上の田んぼが使われなくなるというのは美しい景観としても痛手のようです。
こういう田んぼ一つを直そうとしたらどのくらいお金がかかるのか?を聞いてみたところ、
「前に下の田んぼを直した人が、50万円くらいかかったって言ってたなぁ」とのこと。
50万円かけて直し、今後も田んぼとして使えば、美しい坂折棚田の景観を守ることは可能です。しかし、50万円は地主さんにとっては大きな出費。
残念ながら、田んぼを諦めて畑として使ったり、放棄地という選択をする地主さんは増えていくかもしれないのが現状です。
また、そもそも石積みの技術を持つ人も少なくなっています。
そんな状態を少しでも助けるべく、坂折棚田保存会では毎年10月に石積み技術伝承も目的とした石積み塾を行っています。毎年一つの田んぼを直すのが精いっぱいの状態ではありますが、美しい棚田の景観を守る取り組みをしています。

 

(石積み体験の詳細はこちらから→https://sakaori-tanada.com/experience/maintenance/1275/
たくさんの人に現状を知っていただき、ご協力いただければ幸いです。
『後継者問題』という全国的な農業の問題だけでなく、気候変動までもが棚田の保全を難しくすることを教わり、美しい坂折棚田を次世代の子ども達に残せるよう、一つ一つ努力していかなくてはと棚田保存会の活動の重要性を再認識した今回の大雨なのでした。

   
 

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